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新潟地方裁判所 昭和63年(わ)225号 判決

主文

被告人を懲役一年四月に処する。

未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和六三年五月三一日午後三時ころ、新潟県西蒲原郡黒埼町大字山田四三六番地一斉藤春太郎方墓地内において、A子(昭和五六年五月四日生)を籾穀袋の上に座らせ、同女のポロシャツの前ボタン三つを全部外した上、そこから手を差し入れて、同女の右乳部を多数回撫でまわし、更に、スカートの中に手を差し入れてパンツの上から同女の臀部を撫で、もって、一三歳未満の女子に対しわいせつの行為をしたものである。

(証拠の標目)《省略》

(累犯前科)

被告人は、

(1)  昭和五八年八月一八日浦和地方裁判所において強制わいせつ罪により懲役一年二月に処せられ、同五九年九月七日右刑の執行を受け終わり、

(2)  その仮出獄期間中に犯した同罪により同五九年一〇月三〇日札幌地方裁判所において懲役一年六月に処せられ、同六一年四月一三日右刑の執行を受け終わった

ものであり、右事実は、検察事務官作成の前科調書及び調書判決謄本二通によりこれを認める。

(法令の適用)

一  罰条

刑法一七六条後段

一  再犯加重

同法五六条一項、五七条

一  未決勾留日数の算入

同法二一条

一  訴訟費用の不負担

刑事訴訟法一八一条一項ただし書

(強制わいせつ罪の成否について)

弁護人は、「小学校一年生の女児は、その胸(乳部)も臀部も未だ何ら男児と異なるところなく、その身体的発達段階と社会一般の通念からして、胸や臀部が性の象徴性を備えていると言うことはできず、かかる胸や臀部を触ることは、けしからぬ行為ではあるが、未だ社会一般の性秩序を乱す程度に至っておらず、また、性的羞恥悪感を招来するものであると決め付けることは困難であるから、被告人の本件行為をもってわいせつ行為ということはできず、従って、被告人は無罪である。」旨主張する。

よって、検討するに、前掲各証拠並びに司法警察員作成の「強制猥褻容疑事案の発生について」と題する書面、清水作一作成の告訴状、判決書謄本(二通)及び調書判決謄本(二通)によれば、左記の事実を認めることができる。

「(一) (被告人の行状等)

被告人は、知能が低く、小・中学校を特殊学級で過ごすような状態にあって性的欲求がありながら、成人の女性と交際することができず、そのため自己防衛力の乏しい女児に対し甘言を弄してわいせつ行為等を繰り返すようになり、①昭和五三年六月一日強制わいせつ(中学校プール付近で五歳の女児のパンティーを脱がせて、その陰部を手指で弄んだ)、強姦致傷(小学校の便所付近で、九歳の女児を下半身裸にして姦淫しようとしたが、途中で射精して未遂、その際同児に対し全治四日間の会陰部擦過傷等の負傷)罪により懲役三年(四年間保護観察付き刑の執行猶予)に、②同年一〇月二七日強制わいせつ(松林内で、七歳の女児の陰部に自己の陰茎を押し当てた)罪により懲役一年に、③同五八年八月一九日強制わいせつ(公園で、九歳の女児の乳房及び陰部を手指で弄んだ)罪により懲役一年二月に、④同五九年一〇月三〇日強制わいせつ(寺の境内で、七歳の女児のパンティー内に右手を差し入れて陰部を弄んだ)罪により懲役一年六月に各処せられている。

(二) (本件犯行状況等)

被告人は、昭和六三年五月三一日午後二時ころ、肩書き借家近くの小学校のグランドへ行き、判示被害者であるA子(当時七歳)が遊んでいるのを認めるや、同児が小学校一年生にしては背も高くて体格が良く(身長約一二五センチメートル、体重約二五キログラム)、可愛い子供であったことから、同児に悪戯しようと考え、「おじさんとザリガニ採りに行こう。」と誘いかけて同児を含め四名の児童を連れて判示犯行場所へ行った。

被告人は、同所に着くや、他の子供達をザリガニ採りに追いやって、一人になった右A子に対し、「ここに座りなさい。」と言って、同児を抱き抱えて籾穀の入っている袋が積んである真ん中付近に座らせ、同児のポロシャツの前ボタン三つを全部外した上、そこから手を差し入れて、同児の右乳部を手のひらで多数回撫でまわした後、同児のスカートの中に手を差し入れてパンツの上からその臀部を撫でた。右犯行により、被告人の胸はどきどきして、陰茎も勃起し、更に同児の陰部に手指を挿入したいとの欲求に襲われたが、そこまですると、刑務所に行くことになると考えて、これを思いとどまった。

一方、右A子は、ザリガニ採りに連れられて行ったのに、籾穀袋の上に座らせられたことから、いぶかしく思っていたところ、被告人が突然同児のポロシャツのボタンを外して乳部を手で触ってきたため、気持ちが悪く、恐ろしくて泣き出したくなり、臀部を触られたときには、嫌で嫌で仕方がなかったが、逃げたり泣いたりすると、被告人が怒り出すかも知れないと考えて我慢していたところ、被告人が、同児の身体を触るのを止めたため、同児は籾穀袋から降りてザリガニ採りに逃げて行った。

(三) (犯行の発覚状況)

右A子は、祖母B子においてA子らが被告人に連れられて行くのを見ていたことから、同日午後五時すぎころ、B子が帰宅するや、同女に対し、「あのおじさんエッチなおじさんなんよ。」と報告した。被告人の素振りに不審を抱いていたB子が、「何された。」と聞き返したところ、A子は「墓場のところで、シャツのボタンを外され、おっぱいを触られたし、スカートの下に手を入れられてパンツの上からお尻も触られた。」と恥ずかしそうに話した。

これが右A子の担任教諭Cの知るところとなり、同教諭において、同年六月一日午後四時ころ、小学校に巡回に来た新潟西警察署所属司法警察員巡査部長吉田光一に通報した。

そこで、同巡査部長は、被害者らから事情聴取をするなどした結果、被告人には、前記のごとく多数の同種犯歴があることから、このまま放置するわけにはいかないとして捜査に乗り出すことにし、翌二日、右A子の父Dから告訴状の提出を受けた。」

右認定事実によれば、右A子は、性的に未熟で乳房も未発達であって男児のそれと異なるところはないとはいえ、同児は、女性としての自己を意識しており、被告人から乳部や臀部を触られて羞恥心と嫌悪感を抱き、被告人から逃げ出したかったが、同人を恐れてこれができずにいたものであり、同児の周囲の者は、これまで同児を女の子として見守ってきており、同児の母E子は、自己の子供が本件被害に遭ったことを学校等に知られたことについて、同児の将来を考えて心配しており、同児の父親らも本件被害内容を聞いて被告人に対する厳罰を求めていること(E子の検察官に対する供述調書、B子の司法警察員に対する供述調書及びD作成の告訴状)、一方、被告人は、同児の乳部や臀部を触ることにより性的に興奮をしており、そもそも被告人は当初からその目的で右所為に出たものであって、この種犯行を繰り返す傾向も顕著であり、そうすると、被告人の右所為は、強制わいせつ罪のわいせつ行為に当たるといえる。

従って、弁護人の主張は採用できない。

(量刑事由)

本件は、女児に対する強姦致傷、強制わいせつ前科四犯を有する被告人が、再び女児に対する強制わいせつ事犯に及んだ、というものであって、本件以外にも、被告人が幼稚園児(女子)に頬擦りしてパンツの上から臀部を触るなどしている事実があることを併せ考えると、被告人にこの種事犯の根深い常習性が見られるのであり、本件につき謝罪等の慰謝の措置をとり得ず、その被害感情に厳しいものがある以上、被告人の本件の刑事責任を軽視することはできず、再度被告人を長期の懲役実刑に処して、その矯正を図らざるを得ないところであるが、被告人自身、これまでの女児らに対する被告人の所業が、いかに同児らの心を傷つけ、これが成長しても消え去り難いものであるかを知っており、本件においては、それと自己の欲望との葛藤の中で、結局は女児にわいせつ行為に及んだものの、それを乳部や臀部を撫でるに留めており、これまでやってきたような姦淫や陰部に手指を差し入れることは止めており、そこにこれまでにない自制心の発達が認められることからすれば、主文程度の刑にとどめ、被告人の自覚と自力による更生を期して早期の社会復帰をさせることが相当と思慮した。

(求刑―懲役三年)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥林潔)

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